日本法人(報酬を得る請求側)が二重課税防止協定(租税条約)の適用で得られるメリット
- 公開
- 2023/12/03
- 更新
- 2024/02/03
- この記事は約7分11秒で読めます。
国際取引における税金は、企業の経済的成功を大いに左右する存在です。予期せぬ高額の税金は、企業の利益や業績に直接的な影響を及ぼす可能性がありますが、課税免除や税率の軽減策をうまく利用することで、企業はその収益を守ることができます。
今回の記事では、日本法人が役務を提供し報酬を得る請求者、インドネシア法人がその対価を支払う購入者という関係での二重課税防止協定の適用とその申請方法について紹介します。
インドネシア法人が役務を提供し報酬を得る請求者、日本法人がその対価を支払う購入者という関係での二重課税防止協定の適用についてはこちらの記事をご参照ください。
二重課税防止協定とは
二重課税防止協定(以下、租税条約)とは、異なる国々間で税務に関する取り決めを行うための国際的で法的な枠組みであり、二重課税や課税権の重複を防ぐことを目的に各国間で締結される税務上の条約です。
租税条約は、所得税、法人税、相続税など、さまざまな税種に関する規定を含んでいます。国と国との間で交渉され、合意された条約に従って、税務当局や企業は税務上の義務を遵守する必要があります。
日本とインドネシアは、1982年に日尼租税条約を締結させており、日本が租税条約を結んでいる国・地域数は79か国に及びます。※1
※1:2023年10月1日現在
租税条約が必要な理由
国際取引においては、多くの国が全世界所得課税※2を採用しているため、居住地国と所得が生じた源泉地国(海外)の両方で課税されることがあり、二重課税の問題が発生します。日本でもインドネシアでも、それぞれの国内法により非居住者に対する課税が定められています。
二重課税は国際的な経済活動を妨げる可能性があるため、その防止策が必要です。多くの租税条約では、個人や法人の「居住地」での課税と「源泉地国」に対する免税または減税を採用し、二重課税を防ぐ仕組みが整備されています。
※2:その国の居住者が、その国内で得た所得のみならず、その国以外の国で得た所得も含めて全ての所得に対して課税を行う課税方式
日本の居住者と非居住者の区別について
日本の国内法では、居住者とは、国内に住所を持つ人、または国内に継続的に1年以上居住している人を指します。原則として、日本で就労するために入国した外国人労働者は、居住者と見なされます。ただし、雇用契約などで日本滞在期間が1年未満であることが明確な場合、非居住者として扱われる可能性があります。
内国法人と外国法人の区別について日本国税庁のHPには、「法人については、本店または主たる事務所の所在地、事業の実質的な管理の場所、設立された場所その他関連するすべての要因を考慮して両締約国の権限ある当局の合意により決定する場合がある。」と記載されています。
インドネシアの居住者と非居住者の区別について
インドネシアの国内法では、居住者とは、国内に住所を持つ人、または国内に継続的に183日以上居住している人を指します。原則として、インドネシアで就労するために入国した外国人労働者がKITAS/KITAP/IMTA(定住許可証)を保有する場合は滞在期間が183日未満でも居住者とみなされます。ただし、雇用契約などでインドネシア滞在期間が183日未満であることが明確な場合、非居住者として扱われる可能性があります。
内国法人と外国法人の区別について、内国法人は、インドネシア国内で正式に登録された内資企業または外資企業であり、外国法人は、インドネシア国内に恒久的施設を持つ、または滞在期間が183日未満の外国企業であると定められています。
租税条約上の居住者の判定については、日本の居住者かどうかは日本の国内法に従い、インドネシアの居住者かどうかはインドネシアの国内方に従います。両国でも居住者と判定された場合は、日尼租税条約の規定に従ってどちらの居住者かを判定します。
租税条約の適用について
日本とインドネシアの企業間の租税条約を適用するには、「所得の源泉がどこか」を判断することが必要です。
日本法人が役務を提供する請求者の場合、具体的には、利益を得る日本法人が「恒久的施設」を持っているかどうか、そしてその「国内源泉所得」が「恒久的施設」に帰属する所得であるかどうかにより、課税の関係性が変わり、租税条約の適用が必要かどうかを判断しなければなりません。
さらに、外国法人への国内源泉所得の課税については、源泉地国の所得税法よりも日本とインドネシア間の租税条約が優先されます。したがって、租税条約によって国内法とは異なる国内源泉所得の範囲や、所得税の軽減または免除等が規定されている場合、その規定に従うことになります。
インドネシアの恒久的施設(PE)とは
恒久的施設(Permanent Establishment、以下PE)は、通常、非居住者や外国法人が特定の場所や代理人を通じてビジネスを行うことを指します。PEの存在は、非居住者および外国法人の課税関係を決める上での大きな指標となります。
国際課税については、「PEなければ課税なし」という基本ルールがあり、原則として国内にPEがなければ、その企業の事業利得に課税できません。
ただし、インドネシア国内にPEを持たない非居住者および外国法人がインドネシア国内の企業と取引を行う場合は、国際取引と見なされ、源泉税PPh 26(20%)の支払いが発生します。
インドネシア国内にPEを持たない外国法人同士がインドネシアで取引を行う場合の利得は課税対象になりません。また、外国法人がインドネシア国内で183日以上ビジネスを行った場合は、PEとして登録をする必要があります。
日本とインドネシアが締結した租税条約上の恒久的施設とは次のものを含みます。※3
- 事業の管理の場所
- 支店
- 事務所
- 工場
- 作業場
- 農場又は栽培場
- 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所
- 建設、据付け、組立て等の建設作業等のための役務の提供を、6ヶ月を超えて行う場合のその場所
※3:「恒久的施設」の範囲については、各国の国内法によって異なる場合があり、日本が締結した各国との租税条約において、国内法上の恒久的施設と異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける非居住者や外国法人等については、その租税条約上の恒久的施設を国内法上の恒久的施設とします。
参考1:所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税防止のための日本国とインドネシア共和国との間の協定
参考2:No.2883 恒久的施設(PE)(令和元年分以後)
日本法人が租税条約を適用して得られるメリット
租税条約を適用することで日本法人が得られるメリットは、基本的に以下の二つが挙げられます。
- サービスフィーへの源泉税(PPh 26)免除
- 外国法人が受領する配当、利子、ロイヤルティ(著作権等)と支店の税引後利益※4に対する源泉税(PPh 26)の軽減
※4:支店の利益から法人税等を除いて残った残存利益

インドネシアの源泉税率について
インドネシアの源泉税率は、日本法人がどこで役務を提供したかではなく、日本法人へ支払われる所得がどこに帰属しているかで判断します。
日本法人の役務提供地を問わず、日本法人がインドネシア国内のPEを通じてサービスを提供する場合、その所得はインドネシア国内のPEに帰属するため、サービスフィーを支払うインドネシア法人はサービスフィーに一定の税率を掛けて算出した所得税額を源泉徴収します。
インドネシア法人が取引先(日本法人)へ料金を支払う際に適用されるインドネシアの国内法と租税条約下の源泉税率は以下の通りです。

【租税条約下の配当金への源泉税率】経営参加目的の場合は10%、資産運用目的の場合は15%
【PEがある場合の支店の税引後利益の計算式】総収入(売上−総営業費)× ①11~22% ×{②20%(租税条約適用なし)or ②10%(租税条約適用あり)}
インドネシア法人が日本法人のサービスを購入する場合の租税条約が適用できる条件
- 条件1:役務提供地は日本またはインドネシア。インドネシア国内に日本法人のPEが無く、サービスフィーは日本国内の日本法人の所得として帰属する。
- 条件2:役務提供地は日本またはインドネシア。インドネシア国内に日本法人のPEがあるが、そのサービスフィーはPEに帰属せず、日本国内の日本法人の所得として帰属する。
上記の条件1、2の場合は国際取引と判断され、インドネシア法人が支払うサービスフィーには通常、国際取引の源泉徴収税(PPh 26)20%と付加価値税(VAT)11%が発生します。ただし、租税条約の適用を行うことでPPh26のみ源泉税免除が可能です。
租税条約が適用できない条件
- 条件1:役務提供地は日本またはインドネシア。インドネシア国内に日本法人のPEがあり、そのサービスフィーがPEの所得として帰属する。
上記の場合は国内取引と判断され、インドネシア法人が支払うサービスフィーには国内取引の源泉徴収税(PPh 23)2%が発生します。 国内取引なので租税条約の適用はできません。
租税条約適用の手続き
租税条約により課税免除や源泉税率の軽減は、自動的に適用されるわけではありません。税務上の優遇を受けるためには、その国の租税手続きに従う必要があります。
税務的恩恵を受けたい日本の法人(報酬を得る請求側)が、源泉徴収手続きをするインドネシアの法人(報酬を支払う購入側)を通じて、源泉地国の税務署に提出することになりますが、基本的には源泉地国の企業側が申請書を代理で作成して提出を行います。
国際取引ごとの申請書の提出場所と申請書の種類については以下の通りです。

DGT申請とは
DGT申請の「DGT」とは、インドネシアの国税総局(General Department of Taxation)の略称です。
DGT申請とは、インドネシア法人が非居住者や外国法人と租税条約を適用させるためにインドネシアの国税総局(DGT)へ行う申請のことをいい、インドネシアと非居住者や外国法人で協力しながら手続きを進めることが必要です。
DGT申請の手続き
日本法人が課税免除や軽減税率を要求するためには、日本法人がインドネシアに恒久的施設を持っていないことを証明しなければなりません。そのため、日本法人は料金の請求先であるインドネシア法人を通じて、国税総局(DGT)に「居住者証明書」(Certificate Of Domicile、COD)を提出します。
このCODが国税総局(DGT)の指定書式、または一定の条件を満たした租税条約国の書式で提出されなければ、サービスフィーに対する源泉税(PPh26)20%の源泉税が課税されてしまいます。
日本法人が行うDGT申請の手続き
- インドネシア法人から国税総局(DGT)が指定した書式:英語版の「居住者証明書」(Certificate Of Domicile、COD)とその日本語版翻訳データを取得する。※5
- 日本の国税庁のWebサイトから「居住者証明書交付請求書」(租税条約等締結国用)と「宣誓書」(日尼租税協定用)をダウンロードする。 ※6
- 居住者証明書、居住者証明書交付請求書、宣誓書に情報を記入し、日本の税務署へ提出する。
- 日本の税務署に調印された居住者証明書をインドネシア法人に提出する。
※5:英語版「居住者証明書」(COD)の書式とCODの日本語訳データについてはこちらからダウンロードができます。
※6:「居住者証明書交付請求書」(租税条約等締結国用)と「宣誓書」(日尼租税協定用)についてはこちらからダウンロードができます。
インドネシア法人が行うDGT申請の手続き
- 日本法人から提出された、調印済の居住者証明書をインドネシアの国税総局(DGT)に提出する。
- 国税総局(DGT)から日本法人の居住者証明書の登録が完了したことを証明する証明書を受領する。
- 受領した証明書を日本法人へ提出する。
提出期限と有効期限
提出期限は、支払い日の前日です。
インドネシア法人が日本法人にサービスフィーを支払う前に完了させておく必要があり、国税総局(DGT)からの登録証明書が発行されていない場合はサービスフィーに対する源泉税(PPh26)20%が課税されてしまうので余裕を持って手続きを進めましょう。
居住者証明書の有効期間は、1年間のみです。翌年以降も租税条約を適用させたい際には、毎年こちらの手続きを行い適用期間を更新する必要があります。
租税条約を適用させたい日本法人は、インドネシア法人を通じて国税総局(DGT)に調印済の「居住者証明書」を提出しなければなりません。また、いくつものインドネシア法人から報酬を受取る場合は、それぞれのインドネシア法人を通じて申請を行うことですべての報酬に対して課税免除や税率の軽減が可能となります。
例えば、インドネシア法人のA社・B社・C社のうち、日本法人がA社のみを通じて国税総局(DGT)に調印済の「居住者証明書」を提出した場合、A社からの支払金額のみに租税条約が適用されます。つまり、日本法人はA社からの報酬額のみ源泉税を免除され、B社とC社からの報酬額には20%の源泉税が課税されます。
まとめ
租税条約により、二重課税といった問題を回避し、企業の税負担を大幅に軽減することが可能となります。企業の利益を保護し、さらに拡大するためにも、この租税条約の理解を深め、適切に活用してください。
なお、支払いの種類によって、軽減税率や記入する書類の情報が異なりますので慎重に手続きを進めることを推奨します。詳細については税務署や税理士の方へご相談ください。
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DGT申請を行うにはどれくらいの時間がかかりますか?
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約1ヶ月ほどを想定して準備を行うことを推奨します。書類の準備から税務署への送付期間も考慮してなるべく早めに手続きを行いましょう。
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DGT申請による租税条約の適用期間に有効期限はありますか?
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DGT申請による租税条約の有効期限は1年間です。翌年も租税条約を適用させたい場合は再度DGT申請が必要となります。
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租税条約を適用することで誰が得をするのでしょうか?
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料金を請求する側が税務的恩恵を受けます。二重課税を防ぐことができ、具体的には源泉税の免除もしくは税率の軽減というメリットがあります。
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読後のお願い
弊社で公開している記事の1つ1つは、日本人とインドネシア人のライター、日本人とインドネシア人の編集者がそれぞれ協力しながら丁寧に1記事ずつ公開しています。
記事の内容にも自信がありますし、新しい情報が入り次第適宜アップデートもしています。これだけ手間ひまかけて生み出した記事はできれば一人でも多くのインドネシアのビジネス関係者に読んでもらいたいです。
そこで、弊社からの不躾なお願いになってしまうのですが、是非SNSでこちらの記事をご紹介いただけないでしょうか。一言コメントを添えてシェアしていただけると本当に嬉しいです。そうやってご紹介いただくことで関係者全員の励みにもなりますので、どうか応援宜しくお願いします!
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