インドネシアの大学の現状と課題(進学率、学費、世界ランキングなど)
- 公開
- 2023/01/29
- 更新
- 2023/12/24
- この記事は約9分47秒で読めます。
インドネシアには、大学や大学院を含む複数の種類の高等教育機関があります。その数は4,500機関以上ありますが、進学率が36%と低いことが問題視され、政府も進学率向上に努めています。
一方で、高校生たちが目指す先の大学自体の質やレベルにも、問題がないとは言えません。
本記事では、日本との比較も交えながら、インドネシアの大学や大学生の現状や課題についてご説明します。また、有名な起業家や政治家を多数輩出している、インドネシアの難関大学や有名大学もご紹介します。
インドネシアの学校教育課程
インドネシアの学校教育課程は日本とほぼ同じで、義務教育は小学校6年と中学校3年の計9年間です。その後は高校が3年間で、インドネシアの中央統計庁の調べ(2021年)によると、小学校の就学率は99.4%、中学校が93.2%、高校が78.5%となっています。
高校卒業後は大学の学士課程が4年。これとは別に、職業教育に特化したディプロマという課程もあります。
参考:Badan pusat statistik「Angka Anak Tidak Sekolah Menurut Jenjang Pendidikan dan Jenis Kelamin 2019-2021」
日本でよく使われる「大卒」「院卒」といった表現には、下記のような略称が用いられます。Sはインドネシア語のSarjana(学士という意味)、DはDimplomaの頭文字です。
インドネシアの役所などで書類を作成する際、最終学歴を書く欄に出会うことがよくあるため、この略称を覚えておくと便利です。
- 学士:S1
- 修士:S2
- 博士:S3
- ディプロマ(1年):D1
- ディプロマ(2年):D2
- ディプロマ(3年):D3
- ディプロマ(4年):D4
参考:大学評価・学位授与機構「インドネシア高等教育の質保証|P.1-2 高等教育制度の概観」
ここからは、インドネシアの教育文化省高等教育総局「STATISTIK PENDIDIKAN TINGGI (高等教育統計)2020」を主な資料とし、インドネシアの大学・高等教育機関についてご紹介します。
インドネシアの大学数と所在地
インドネシアの大学を含む高等教育機関の数は2020年現在4,593機関で、運営主体による内訳は以下の通りです。
- 国公立学校(教育文化省管轄):122
- 私立学校(教育文化省管轄):3,044
- イスラーム系高等教育機関(宗教省管轄):1,240
- その他の省庁・機関の教育機関:187
所在地を見てみると、高等教育機関は国内各地にありますが、特に人口が集中しているジャワ島とスマトラ島が多くなっています。
参考:DIREKTORAT JENDERAL PENDIDIKAN TINGGI「STATISTIK PENDIDIKAN TINGGI 2020|P.51-52 Bagaimana sebaran perguruan tinggi berdasarkan provinsi?」
大学への進学率
大学進学率36%
インドネシアの大学を含む高等教育機関への進学率は毎年微増しており、教育文化省高等教育総局によると、2020年は約36%でした。今では3人に1人以上が大学に進学している計算になります。しかし、隣国のシンガポールが78%、マレーシアが47%であることに比べると非常に低く、政府関係者もインドネシアの進学率上昇を課題としています。
男女別では、近年は女子の大学進学率の方がやや高い傾向があります。インドネシアの中央統計庁のデータによると、全体の大学進学率が31.2%だった2021年は、女子の進学率は33.4%、男子の進学率は29.0%でした。
参考1:DIREKTORAT JENDERAL PENDIDIKAN TINGGI「STATISTIK PENDIDIKAN TINGGI 2020|P.349-350 ANGKA PARTISIPASI KASAR」
参考2:databoks「Belum Capai Target, Angka Partisipasi Pendidikan Tinggi di RI 2021 Masih Rendah」
進学率の地域差
次に、進学率の地域差に注目してみます。
全国の人口の半分を占める住民がいるジャワ島と、同じく20%を占めるスマトラ島の州別の進学率を下記にまとめました。
この調査の対象者は当該地域に居住する19歳~23歳の人であり、大学が多い地域に移住してきた学生も含まれています。つまり、その地域で生まれ育った子どもの進学率ではありません。とはいえ、国内で、または同じ島内でもかなりの差があることがわかります。
ジャワ島
州名 | 粗進学率 |
---|---|
ジャカルタ首都特別州 | 95% |
西ジャワ州 | 20% |
バンテン州 | 121% |
中央ジャワ州 | 23% |
ジョグジャカルタ特別州 | 129% |
東ジャワ州 | 30% |
スマトラ島
州名 | 粗進学率 |
---|---|
北スマトラ州 | 31% |
西スマトラ州 | 27% |
リアウ州 | 36% |
リアウ諸島 | 22% |
ジャンビ州 | 27% |
南スマトラ州 | 17% |
バンカブリトゥン州 | 18% |
ブンクル州 | 10% |
ランプン州 | 15% |
粗就学率:ある学年に在籍すべき年齢の人口に対する、その学年に在籍している生徒数の割合。就学者が公式学齢を超えて広がっている場合には100%を超える場合がある。
参考1:DIREKTORAT JENDERAL PENDIDIKAN TINGGI「STATISTIK PENDIDIKAN TINGGI 2020|P.349-351 ANGKA PARTISIPASI KASAR」
参考2:Tribunnews.com「Eks Menristek: Baru 34,58 Persen Warga Indonesia yang Tempuh Jenjang Pendidikan Tinggi」
インドネシアの大学の学費
インドネシアの中央統計庁によると、インドネシアの高等教育の2020年度の年間平均費用は1,447万ルピア(約126,000円)でした。これは、高校生の平均費用のほぼ2倍の金額です。(この調査の「費用」とは、登録料、授業料、交通費、制服、文房具、書籍、小遣い、自己負担になるその他の費用を含みます。)
ルピア円は、2023年1月27日のレート(1ルピア0.0087円)で換算しています。
例えば年間の費用が12万円とすると、1か月あたり1万円程度となります。日本人の感覚で見ると非常に安い気がしますが、それでも進学率が30%代に留まっている背景には、経済的な負担が大きいという面もあります。
インドネシアの大学生の多くは、アルバイトなどで学費や生活費を稼ぐことはしません。在学中の費用は保護者の負担で、足りなければ入学前に自分で稼いだり、奨学金を受け取ったりする人が多くなっています。
理由としては、大学生は学業に専念すべきだという考えや、実際に学業が忙しいこと、そして求職者が多いため、時間に制約のある学生を敢えて雇用する企業がそもそも少ないことなどが挙げられます。
参照:databoks「Rata-rata Biaya Kuliah di DI Yogyakarta Tertinggi Nasional」
インドネシアの大学ランキング
イギリスの大学評価機関のクアクアレリ・シモンズが発表しているQS世界大学ランキングにランクインした、インドネシアのトップ大学をご紹介します。
まず、500位以内に入っているのは以下の5大学です。
- ガジャマダ大学(ジョグジャカルタ特別州):231位
- バンドン工科大学(西ジャワ州バンドゥン):235位
- インドネシア大学(ジャカルタ首都特別州):248位
- アイルランガ大学(東ジャワ州スラバヤ):369位
- ボゴール農科大学(西ジャワ州ボゴール):449位
続いて、700位から1000位の間には、ITSスラバヤ工科大学(東ジャワ州スラバヤ)、パジャジャラン大学(西ジャワ州バンドゥン)、ディポネゴロ大学(中央ジャワ州スマラン)、ブラウィジャヤ大学(東ジャワ州マラン)が入っています。
以上はいずれもジャワ島にある大学であることから、大学のレベルや質に地域差が出ていることがわかります。
参考:Quacquarelli Symonds「QS World University Rankings 2023: Top global universities」
インドネシアの大学の課題
大学のレベルの低さ
インドネシアでは長年、国民の学力の低さが問題視されています。例えばPISA(国際学力調査※)の結果を見ると、東南アジアの他の参加国(シンガポール、タイ、マレーシア、ブルネイ)よりも低い順位が続いています。
PISA:義務教育修了段階の15歳児を対象に、 OECD(政府開発援助)が2000年から3年ごとに実施。2018年の参加国は79か国。うちOECD加盟国は37か国。
インドネシアの教育業界の問題に関しては、以下の記事もご覧ください。
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低学力の原因はいくつか考えられますが、その一つが大学のレベルの低さです。例えばご紹介したQS世界大学ランキングを見ると、インドネシアの大学は一番上が231位です。日本の大学が100位以内に5大学入っているのと比較しても、その違いは明確です。
これは、インドネシアではどんなに優秀な子どもでも、国内の大学を目指していては、世界水準の学力が身に付かないことを示唆しています。
実際、有名な若手実業家のプロフィールを見ると、海外留学経験のある人が多いことがわかります。優秀で経済力のある人は留学するというのが、インドネシアでは一般的になっているのです。
大学の質認証制度の問題
インドネシアの高等教育機関は、第三者機関による外部質保証審査を受けることになっています。この審査を担当しているのは独立・非営利の組織である国立高等教育アクレディテーション機構(BAN-PT)で、審査対象はすべての高等教育機関とその教育プログラムとなっています。
しかし、制度開始時点で「未認証の教育機関・教育プログラムが授与する資格・学位が無効とされるため、2012年までに認証を受ける必要がある」とされていたにも関わらず審査が間に合わず、未認証の教育機関には仮の認証を与える措置が取られました。
その後も高等教育機関やその教育プログラムの増加にBAN-PTの評価者の確保が追い付かず、2020年現在でも認証を受けた機関は4,593のうち2,713に留まっています。
裏を返せば、インドネシア人の高等教育に対する熱意や需要が高まってきたとも言えますが、やはり質を担保することは重要であり、今後の課題となっています。
教育機関別に見ると、未認証の機関が特に多いのはディプロマの1年と2年ですが、大学(学士課程)でも国公立で7.7%、私立で16.9%が未認証となっています。
参考1:DIREKTORAT JENDERAL PENDIDIKAN TINGGI「STATISTIK PENDIDIKAN TINGGI 2020|P.26 AKREDITASI / P.55-56 LEMBAGA」
参考2:大学評価・学位授与機構「インドネシア高等教育の質保証|P.1-2 高等教育制度の概観」
高い中退率
また、せっかく大学に入ったのに中退する人が多いことも問題です。
インドネシアで2019 年に高等教育機関を中退した学生の割合は7.1%でした。日本の国公私立大学、短期大学、高等専門学校における中退者は、コロナ禍の影響を受けた2021年でも2.0%なので、インドネシアの学生の中退率がいかに高いかがわかります。
なお、中退の理由としては、大学で指定された単位や成績を取れなかったなどの成績不振、修学意欲の低下、親元から離れたことなどによる学生生活不適応、経済的困窮などが挙げられます。男女別にみると、中退者のうち約61.6%が男性、38.4%が女性でした。
参考1:DIREKTORAT JENDERAL PENDIDIKAN TINGGI「STATISTIK PENDIDIKAN TINGGI 2020|P.31/P.338 ANGKA PUTUS KULIAH」
参考2:大学ジャーナルONLINE「コロナ禍理由の大学中退者が増加、2021年度文部科学省調査」
低い大学院進学率
同レポートによると、インドネシアの大学生の修士課程への進学率は4.5%で、修士課程から博士課程への進学率は13.9%でした。一方、日本の場合、学士課程から修士課程への進学率は11.0%、修士課程から博士課程への進学率は9.3%でした(2018年度)。インドネシアでは、質の高い人材を育成するため、大学生の進学率アップが課題とされています。
参考1:DIREKTORAT JENDERAL PENDIDIKAN TINGGI「STATISTIK PENDIDIKAN TINGGI 2020|P.154-157 MAHASISWA TERDAFTAR」
参考2:文部科学省「学士課程修了者の進学率の推移(分野別)/修士課程修了者の進学率の推移(分野別)」
インドネシアの有名大学
最後にインドネシアの難関大学や有名大学をご紹介します。
インドネシア大学(Universitas Indonesia)
ジャカルタ郊外のデポックに位置する総合大学で、12の学部を持ちます。日本で例えると東京大学のようなポジションの、国内最高峰の大学です。外国人向けインドネシア語コースを開講しており、企業の語学研修など、ジャカルタ周辺に住む日本人がインドネシア語を学ぶ場所としてもよく名前が挙がります。
ガジャマダ大学(Universitas Gadjah Mada)
インドネシア大学と並び、インドネシアを代表する大学がガジャマダ大学です。古都ジョグジャカルタに位置する、18の学部を持つ総合大学で、日本で例えると京都大学のようなポジションです。ジョコ・ウィドド大統領やジャカルタ首都特別州のアニス前‘知事も、このガジャマダ大学出身です。
バンドン工科大学(Institute Teknologi Bandung)
西ジャワ州の州都バンドンに位置する理工系トップ大学が、このバンドン工科大学です。日本で例えると東京工科大学のようなポジションです。理学・工学だけではなく、建築学部や芸術デザイン学部もとても人気があります。
ボゴール農科大学(Institut Pertanian Bogor)
ボゴール農科大学は、農業系ではトップの大学で、日本で例えると東京農工大学のようなポジションです。農学部、獣医学部、水産海洋学部、畜産学部、林業学部、農業工学部、数学自然科学部、経済経営学部、人間生態学部と9つの学部を設置しており、スシロ・ユドヨノ・バンバン前大統領もこの大学を卒業しています。
ビナ・ヌサンタラ(ビヌス)大学(Universitas Bina Nusantara)
経営・IT・マーケティングなどの分野に力を入れている私立大学で、ジャカルタ以外の色々な街にもキャンパスを置いています。ビジネスで活躍している卒業生が多く、Tokopediaの創業者William Tanuwijaya氏もこのビヌス大学出身です。
テルコム大学(Universitas Telkom)
バンドンのテルコム大学は、インターネットプロバイダーTelkomselで知られる「テルコムセルグループ」の教育財団によって運営されています。経済学部やIT学部が有名です。
インドネシアの「大卒者」とその裏側
すでに「大学全入時代」に入ったとも言われる日本では、最終学歴が「大卒」の人は珍しくなく、「院卒」で当然とされる分野さえあります。
一方のインドネシアでは、大学に行く人はまだ3人に1人で、そのうち7%が退学しています。インドネシアにおいて「大卒」の肩書は、まだまだ特別なのです。
日本人である私たちが日本にいながら出会うインドネシア人の多くは、そんな狭き門を潜り抜けてきた非常に優秀な、そして恵まれた人たちです。彼らは保護者の理解と経済的なサポートを得て、学業に集中してきました。英語も達者で、人によっては第二外国語も習得し、さらに専門分野を極め、卒業後の進路にも選択の余地を持っています。
一方で、様々な事情で高校を卒業しても進学できない若者たちの多くは、実家や親戚の家業を手伝うか、そうでなければ全問的な知識や技術を持たないまま、求職者で溢れる社会に飛び出すことになります。
本記事でご紹介した通り、インドネシアの大学には制度や質の面で色々な問題があります。その問題を解決しながら、より多くの若者が大学を目指し、卒業できる状況になっていくことが望まれます。そのために多角的なアプローチが必要であることは、言うまでもありません。
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弊社で公開している記事の1つ1つは、日本人とインドネシア人のライター、日本人とインドネシア人の編集者がそれぞれ協力しながら丁寧に1記事ずつ公開しています。
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そこで、弊社からの不躾なお願いになってしまうのですが、是非SNSでこちらの記事をご紹介いただけないでしょうか。一言コメントを添えてシェアしていただけると本当に嬉しいです。そうやってご紹介いただくことで関係者全員の励みにもなりますので、どうか応援宜しくお願いします!
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