インドネシアの労務問題(労働契約・残業・社会保障)
- 公開
- 2022/12/02
- 更新
- 2024/02/03
- この記事は約7分58秒で読めます。
インドネシアの労働に関する法律は、雇用主よりも被雇用者(労働者)に有利な内容になっています。加えて、残業の計算方法、宗教に関わるものなど、日本とは違った労務のルールにも注意が必要です。
今回は、インドネシアで人を雇う上で理解しておきたい労務問題を法律や事例を元に紹介します。
インドネシアにおける労働契約の種類
無期雇用を「パーマネント」、有期雇用を「コントラクト」と呼ぶのが一般的ですが、インドネシアでは下記のような種類で雇用の種類が定められています。
正規雇用(正社員)
雇用期間に定めが無いもの。最初の3ヶ月は試用期間を設けることができる。インドネシア語ではPKWTT(Perjanjian Kerja Waktu Tidak Tertentu)と呼ばれる。
有期雇用(契約社員)
雇用期間に定めがあり、大きく3種類に分けられる。インドネシア語ではPKWT(Perjanjian Kerja Waktu Tertentu)と呼ばれる。契約期間終了時に企業は補償金を支払う。
- 期間による限定:
季節性などで期間が決まっているもの、延長で最長5年まで契約期間を伸ばすことが可能。 - 業務による限定:
業務が1回限りのもの、契約した業務の終了で契約も終了。 - 日雇い:
業務量が変動するもの。日雇い契約で連続3ヶ月・月21日以上の勤務が続く場合には正規雇用(PKWTT)扱いする必要がある。
1か月以上働いた契約社員が契約終了となる際、雇用主は社員に対して損失補償金を支払う必要があります。基本の金額は「基本賃金×勤続月数/12」で、例えば12か月勤務した人であれば賃金1か月分となります。他に有給休暇の未取得分がある場合は、それに応じて調整されます。
なお、こちらの補償金はインドネシア人に適用されるもので、外国人労働者の場合、支払い義務はありません。
出典1:JDIH BPK RI「Perjanjian Kerja Waktu Tertentu, Alih Daya, Waktu Kerja dan Waktu Istirahat, dan Pemutusan Hubungan Kerja」
出典2:Glints for Employers「Pengaturan Jam Kerja PKWT dan PKWTT」
インドネシアの最低賃金と給与に関する規則
最低賃金
インドネシアでは、毎年、州または県・市ごとに最低賃金が決定されます。企業は自ら定めた賃金体系に従って従業員に支払われる賃金が、最低賃金を上回るようにしなければなりません。
賃金規定
インドネシアの企業従業員の賃金の構成には、「手当なし賃金」、「基本給と固定手当」、「基本給と固定手当と変動手当」の3種類があります。
支払いは労使間で取り決めた日にルピアで行い、企業は明細を発行する義務があります。日払い、週払い、月払いが可能ですが、支給期間は1か月を超えてはいけません。賃金支給が遅れたり、支払われなかったりした場合は経営者に罰金が科されます。
基本的には働かない場合賃金は発生しませんが、例外的に欠勤しても賃金支給が保証されているケースがあります。例えば、以下のような理由で欠勤または仕事を行わない場合が該当します。
- 病気:
病欠して4か月までは満額、4か月経過後は4か月ごとに25%ずつ減額 - 生理:
生理日目・2日目に痛みがある場合は、欠勤したり出勤して仕事をしなくても賃金支給 - 冠婚葬祭:
従業員本人の結婚の場合は3日、家族の冠婚葬祭は2日、その他の同居家族の死亡なら1日の特別有給休暇を取得可能 - 仕事以外の活動:
国家義務、宗教義務(当該企業に勤務する間に1回のみ)、企業が承認した労働組合の職務、会社からの教育職務などの活動がある場合 - その他:
– 週休、年休、産休など従業員の権利を行使する場合
– 従業員には準備があるのに企業が仕事をさせなかった場合
なお、企業は、従業員の賃金を定期的に見直す必要があると定められています。法律上は必ずしも昇給させなければいけないわけではありませんが、慣習上、賃金の減額は難しいと言われています。
出典:JETRO「インドネシア 外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」
手当規定
賃金に上乗せされる手当には、前述の通り「固定手当」と「変動手当」があります。それぞれについて企業の義務とされているものと自由に決められるものがありますが、全体的に労働者に手厚い制度となっています。
固定手当の例
- 配偶者手当:結婚していて配偶者が働いていない場合に支給(法律で規定)
- 児童手当:未婚・未就労の子どもがいる場合に支給(法律で規定)
- 健康手当:企業は従業員とその家族を健康保険制度BPJS Kesehatanに登録し、保険料を納入(法律で規定)
- 老齢手当:企業は従業員を社会保障制度BPJS Ketenagakerjaanに登録し、保険料を納入(法律で規定)
- 役職手当:特に責任の重い特定の役職に就く場合に支給
- 一般手当:役職に就いていない従業員に感謝の意味を込め支給
- 住宅手当:企業が所有する住宅以外に居住する場合に支給
変動手当の例
- 食事手当:昼食または昼食分の手当を支給
- 通勤手当:交通費を補助
- 業績手当:一定期間の業績に応じて支給
- 時間外労働手当:残業実績に応じて支給(法律で規定・後述)
- 宗教大祭手当:イスラム教またはそれぞれの宗教の大祭前に支給(法律で規定・後述)
出典1:Gadjian.com「9 Jenis Tunjangan Karyawan Beserta Contohnya」
出典2:klikasuransiku.com「Ketahui Jenis-Jenis Tunjangan yang Perlu Dipahami」
インドネシアの労働時間・時間外労働(残業)について
雇用の種類に関わらず、労働時間は「1日7時間労働の場合、週6日(週休1日制)」または「1日8時間労働の場合、週5日(週休2日制)」と定められています。これを超えるものが時間外労働(残業)となります。
時間外労働
時間外労働の上限は「1日最大4時間まで」「1週間最大18時間まで」と定められています。これらは事前に、雇用者・労働者両方の同意が必要で、雇用者は労働者へ書面などで通知することになっています。
ただし、時間外労働の規定に単純に当てはめにくい職種の場合、例外規定があります。そういった場合には労働契約や就業規則でルールを定め、より高い賃金を支払うことによって、この時間外労働を適用しないことを決めることも可能です。
残業代(時間外労働手当)の計算方法
残業代は、賃金の1/173を1時間あたりの「基礎賃金」として計算します。
業務日の残業の場合
- 最初の1時間:基礎賃金の1.5倍
- 2時間目以降:基礎賃金の2倍
休日出勤(週休1日の場合)
- 最初の7時間:基礎賃金の2倍
- 8時間目:基礎賃金の3倍
- 9~11時間目:基礎賃金の4倍
休日出勤(週休2日の場合)
- 最初の8時間:基礎賃金の2倍
- 9時間目:基礎賃金の3倍
- 10~12時間目:基礎賃金の4倍
1日の時間外労働が4時間を超える場合には、残業代だけではなく、十分な休息と1,400キロカロリー相当の食事の提供が義務付けられています。
法律で定められているその他の福利厚生
健康保険と社会保障プログラム
会社の労務管理において、従業員の保険手続きは非常に重要です。
インドネシアでは、健康保険「BPJS Kesehatan」と、社会保障プログラム「BPJS Ketenagakerjaan」という制度があります。BPJS Kesehatanは外来や入院時に、BPJS Ketenagakerjaanは就労中の事故や退職時、死亡時に適用されるものです。
加入対象は、BPJS Kesehatanは国民全員、BPJS Ketenagakerjaanは国政機関以外の雇用主の下で働く労働者となっています。一般企業に勤める場合には、日本と同じように企業側が、労働者の情報を登録したり毎月の支払いをしたりしています。
なお、BPJS KesehatanとBPJS Kegenagakerjaanはどちらも、外国人も加入対象になっています。(BPJS Kegenagakerjaanのうち、年金制度のみ加入義務無し)
詳しくは下記の記事をご参照ください。
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インドネシアの国民皆保険制度は「BPJS」と呼ばれ、医療保険と労働者社会保障に分かれています。6か月以上就業する外国人も加入義務があります。
産休と職場復帰
インドネシアの産休の規定は、2022年6月に承認された新しい母子福祉法(RUU KIA)によりいくつかの点が変更となっています。
出産休暇
従来の規定 | 新しい規定 | |
---|---|---|
出産休暇 | 最短3か月 ※出産前1.5か月・出産後1.5か月 ※3か月分の賃金全額支給 | 最短6か月 ※前半3か月は賃金全額支給、後半の3か月は賃金の75%支給 |
夫の同伴休暇 | 2日 | 最大40日 ※流産の場合は7日 |
以前の産休は産前と産後それぞれ最低1.5か月で、合計3か月を超える休暇を許可するかどうかは企業の裁量に任せられていました。新しい規定では、母子保護の観点から、産前産後合わせて最短6か月となっています。新しい母子福祉法と従来の労働法の内容が重複・矛盾する箇所については、労働法の内容が無効となり、母子福祉法が適用されます。
職場復帰
インドネシアの労働法では、妊娠・出産・流産などを理由に従業員を解雇することは禁じられています。一方で、産休後に職場復帰する従業員を元のポストに戻すことを求める規則がないため、本当に女性従業員の労働環境が守られるのかが疑問視されています。
産休関連の不透明な規定
従来の労働法と新しい母子福祉法を合わせても詳細に規定されていない事項があり、どのように運用されていくか不明な点も残っています。
例えば、一人の女性が第二子、第三子を妊娠・出産した場合に同じルールが適用されるか、法律には定められていません。また、産休前半に賃金全額分が支給される手当は企業が支払うことになっていますが、産休後半の「賃金の75%分の手当」をどこから支出するかは不明で、健康保険BPJS Kesehatanから捻出するなど複数の案が出ている状況です。加えて、母子福祉法の規定に雇用主が違反した場合の法的責任も規定されていません。
このように、産休制度に関してはこれから細かく規定されていく可能性があります。インドネシアに進出する日本企業の労務担当者は、最新情報を常に確認していくことをお勧めします。
出典1:BBC NEWS INDONESIA「Cuti melahirkan enam bulan dikhawatirkan timbulkan diskriminasi untuk pekerja perempuan, DPR klaim akan cari solusi」
出典2:Universitas Katolik Parahyangan 「Cuti Melahirkan 6 Bulan: Kemenangan Pekerja Perempuan?」
宗教大祭手当(THR)
インドネシアでは「パンチャシラ」という建国五原則のなかで「唯一神の信仰」が謳われており、それぞれが何かの宗教を信仰しています。それぞれの宗教の祝日前に企業から労働者へ支払うのが宗教大祭手当(THR:Tunjujangan Hari Raya)です。
- イスラム教:断食明け大祭(レバラン)
- プロテスタントやカトリック:クリスマス
- ヒンドゥー教:ニュピ
- 仏教:仏誕祭
- 儒教:中国春節
THRは、それぞれの祝日の7日前までに支払うのが企業の義務となっています。しかし実際は、従業員のほとんどがイスラム教徒である場合、断食明け大祭(レバラン)のタイミングで一斉に支払うという企業もあります。
THRの金額は、12ヶ月以上働いていれば賃金1か月分、12か月未満であれば「勤続月数×月給/12」になります。
出典:JETRO「インドネシア 外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」
日本とは異なるインドネシアの労務事情
ご紹介した通り、インドネシアでは、日本と同じ方法で労務管理を行うことはできません。残業代の計算方法や、健康保険・社会保障制度のシステム、宗教大祭手当に代表される法律で規定された各種手当など、異なる点が多いからです。
また、残業代が高い、「当然支給されるもの」と認識されている義務ではない手当がある、賃金の減額が事実上難しいなど、全体的に雇用主よりも被雇用者に有利な環境だということも知っておく必要があります。
法律やシステム、労働文化が日本と異なることに加え、インドネシアでは新しい法律が施行される度に、以前の法律と矛盾していたり、詳細が未定だったりして混乱が発生するという問題もあります。安心安全に経営していけるよう、プロにアドバイスを聞ける状態にしておくのが良いでしょう。
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インドネシアではどのような雇用形態がありますか。
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インドネシアでは、主に「パーマネント(無期雇用/正社員)」、「コントラクト(有期雇用/契約社員)」の2つの雇用形態があります。試用期間や契約期間についての詳細は、それぞれ法律により定められています。
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インドネシアの企業は従業員に対し、一般的にどのような手当てを支給しますか。
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インドネシアの企業では、従業員に対し配偶者手当、児童手当、健康手当などの固定手当、食事手当、通勤手当などの変動手当などを支給することが多くなっています。
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インドネシアの企業では、従業員の勤務時間は何時間ですか。
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雇用の種類に関わらず、インドネシアの会社員の労働時間は「1日7時間労働の場合、週6日(週休1日制)」または「1日8時間労働の場合、週5日(週休2日制)」と定められています。これを超えるものが時間外労働(残業)となります。
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